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秋田地方裁判所 事件番号不詳 判決

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は、「被告委員会が、昭和二十八年一月二十三日為した町長解職請求者署名簿の署名を有効と認めた決定及び同年二月十三日原告の異議申立を却下した決定並びに右町長解職請求者署名簿の署名はいずれも無効であることを確認する。訴訟費用は被告の負担とする。」、との判決を求め、その請求の原因として

第一、原告京谷仁左衛門は昭和二十六年四月二十三日以降天王町長の職にあるものであるが、同町選挙権者(以下有権者という。)訴外沼田竹造外七十八名は代表者となり昭和二十七年十二月二十三日から昭和二十八年一月九日迄の間天王町長たる原告の解職請求署名の収集をなし、法定数である同町有権者総数五千六百八十四名の三分の一である千八百九十五名を越える二千二百四十二名の署名を得たりと称し、昭和二十八年一月九日該署名簿を被告に提出し、該署名が選挙人名簿に記載されたものであることの証明を求めたところ、被告は審査の結果同年一月二十三日右署名のうち九十九名は無効とし他は全部有効と決定し、その旨証明をなし、翌二十四日より七日間天王町役場に於て該署名簿を関係人の縦覧に供したので原告は右縦覧期間内の同年一月三十日被告に対し右署名が無効であるとして異議を申立たところ、同年二月十三日被告は右有効とした署名中更に七十七名を無効としたが他は全部有効であるとして原告の右異議申立を却下し、同月十四日これを告示した。

第二、然れども左記の理由により該署名簿の署名は無効であり又該署名簿を有効と認めた決定及び原告の異議申立を却下した決定も又無効である。

(一)右解職請求署名者中には被告委員会の委員と地方自治法第百八十九条所定の親族関係にある者が存するに拘らず該署名の効力の審査議決につき右委員が参与して居るから前記却下の決定は無効である。

(二)被告委員会の委員又は補助員の子が解職請求代表者となつているし、又右委員には補助員本人若しくはそれと前記法定の親族関係にあるものが署名者となつているから本件署名簿は無効であり従つて署名全部が無効である。

(三)解職請求代表者七十九名中児玉カネ外三十一名は代筆代印であるから、右は地方自治法施行規則第十二条の規定に違反することになり、結局これ等の者を解職請求代表者とした署名簿による署名は地方自治法第七十四条の三第一項第一号により全部無効である。

(四)解職請求代表者が署名収集を他の有権者に委任するには、解職請求代表者全員の署名押印した署名収集委任状をもつてすることを要し且つこれを当該普通地方公共団体の長及び受任者の属する市町村の選挙管理委員会に屈出で、又受任者は解職請求代表者の委任状を添付した解職請求署名簿を用いる等地方自治法施行令第百十六条、第九十二条所定の手続を要するが受任者たる村山操子外三十八名は右の手続をしない署名簿に基いて署名収集をした。されば右署名簿は成規の手続によらない無効のものであり、従つて右署名簿の署名も亦法令の定める成規の手続によらない署名として全部無効である。

(五)仮に前記無効事由がいずれも理由なしとするも本件解職請求署名中佐藤清次郎外三百六十三名の署名は代筆代印であつて無効である。さすれば有効署名は前示署名総数二千四百四十二名より右を控除した千八百七十九名に過ぎないから解職請求のため必要な法定数たる有権者総数五千六百八十四名の三分の一たる一千八百九十五名の署名に達しなくなるから本件解職請求は成立しないことになる。

以上の次第であるから請求趣旨の如き判決を求める為本訴に及ぶと述べ、

(六)尚本訴提起後被告委員会は昭和二十八年三月五日右解職請求の賛否投票を行う旨の告示をなし、同年同月二十六日賛否投票を施行した結果有権者総数の過半数の同意あり、これがため原告は町長の職を失つたので同年五月二日町長選挙の告示をし同月十二日町長選挙を執行し訴外二田が当選した。しかして右解職投票の効力に関しては何等の不服申立もしないけれども、右町長選挙の効力に関しては本件署名簿の署名無効をも一事由として、原告は法定期間内に異議申立を為したが被告委員会は同年六月二十四日これを却下したので同年七月十四日更に秋田県選挙管理委員会に訴願し目下係属中である。

されば前述のとおり署名が無効なれば、賛否投票、町長選挙はこれを執行する事由が存しないのに執行した無効のものに帰し原告も亦町長の地位を失はなかつたことになるから、賛否投票に対し何等の不服申立をしないで法定の出訴期間を徒過したとしても、尚本件署名無効確認の訴を維持する利益が存するものであると陳べ、被告の本案前の抗弁を否認した。(立証省略)

被告代理人は

本案前の抗弁として原告の訴を却下するとの判決を求め、その理由として署名簿に関する訴訟をなし得るものは署名簿の署名の効力に関し被告に異議を申立て、その申立を却下せられた者に限るべきであることは地方自治法第七十四条の二の規定に照し明かである。しかるに本件解職請求署名の効力に関し異議申立をなしたのは天王町長たる京谷仁左衛門であり個人たる原告は何等異議申立をすることなく直ちに本件訴を起こしたのであるから、訴願を経ない不適法な訴として却下さるべきであると陳べ、

本案について「原告の請求を棄却する。」、との判決を求め、答弁として

原告主張事実中

第一の事実は解職請求署名者が選挙人名簿に記載された者であることの証明に関する審査決定につき原告が異議を申立てたとの点及び署名無効決定の内容の点を除きこれを認める。右に対し異議を申立てたのは個人としての原告ではなく天王町長としての原告がしたのである。又当初署名を無効としたのは九十九名であるが該署名者中より異議中立があり審査の結果右十八名を有効とし、天王町長としての原告の異議申立につき審査の結果新に九十五名の署名を無効としたのである。

第二の事実中

(一)の点は解職請求署名者中被告委員と地方自治法第百八十九条所定の親族関係ある者が存することは認めるが斯る署名の審査には当該委員は関与せず補助員が審査したものである。

(二)の点は被告委員会の委員又は補助員と右の親族関係ある者が解職請求署名したとの点を除き全部否認する。

(三)及び(四)の事実は否認する。解職請求代表者の署名は全部自署自印であり又署名収集も解職請求代表者自らなしたものであつて他人に委任した事実はない。

(五)の事実は否認する。被告委員会が無効とした以外の署名は全部自署自印である。

(六)の解職請求の投票から町長選挙の執行迄の事実は認める。

以上のとおりであるから原告の本訴請求は訴願を経ない不適法な訴であるし、そうでないにしても法定数の有効署名があるからこの点で原告の請求は理由がないのみならず、本件に関する賛否投票の効力に関し何等の不服申立をしないで出訴期間を徒過したのであるから最早賛否投票の効力を争い得ないから本訴を維持する利益がないと述べた。(立証省略)

理由

原告が昭和二十六年四月二十三日以降天王町長の職にありしところ訴外同町有権者沼田竹造外七十八名が代表者となり昭和二十七年十二月二十三日から昭和二十八年一月九日迄の間天王町長たる原告の解職請求署名の収集から該署名に対する異議申立の結果被告委員会が結局二千二百四十二名の署名中百七十六名を無効とし爾余の署名を有効と決定し(原告が異議申立をしたかどうか及び右無効と決定した経過の点を除く。)その旨告示するまでの経過事実は当事者間に争ない。

被告は原告がした前述の異議申立は天王町長たる公人としてであるに反し本訴の原告は私人として訴を提起したものであるから別人格であり、従つて本件は異議申立を経ていない不適法な訴である旨主張するけれども、たとえ右異議申立に当り原告の肩書に「天王町長」の名称を附したとしても右は解職請求を受けている原告個人を特定するに適切なものとして記載したにすぎないものとみるべく、これをもつて本訴における原告とは別人であるというが如きは言を強ゆるものであつて採用し得ない。

而して本件解職請求に基き昭和二十八年三月二十六日天王町長解職請求に対する賛否投票が行はれ、過半数の同意を得た結果原告が町長の職を失うに至つたこと、原告は右投票の効力に対しては法定の期間内に何等不服申立をしなかつたこと、右賛否投票の結果に基いて同年五月十三日町長選挙が施行されたことは当事者間に争ない。

被告は賛否投票に対し不服申立をしないで出訴期間を徒過した本件においては最早本訴を維持する利益がないと主張し、原告は若し本件署名が無効なれば賛否投票及び町長選挙も亦当然に無効になり、原告は町長の地位を失はなかつたことになるから賛否投票の効力についての出訴期間経過後である現在でも、尚本訴を維持する利益ありと主張するのでこの点につき考察する。

解職請求に対する賛否投票は適法な請求を前提として行わるべきところ、法定の有効署名の存することは解職請求の要件であるから、これを欠く請求に基いてなされた賛否投票の手続は、投票を行うべきでないに拘らずこれを行つた違法があることに帰着する。後記改正前の地方自治法の下においては、請求者の署名の効力はすべて賛否投票の効力を争う争訟において、その無効原因として主張すべきものであつたことは明らかである。しかるに昭和二十五年法律第百四十三号改正地方自治法第七十四条の二(同法第八十一条第二項により普通地方公共団体の長の解職につき準用をみる。)の規定により新たに署名の効力に関する独立の争訟が設けられ、同法第二百五十五条の二の規定により署名の効力はこれによつてのみ争うことができ、同時に右の規定によつて賛否投票に関する効力を争う方法についても制限を設けられるに至つた。そこで右の署名の効力に関する争訟の判決の効力ないしこれを賛否投票の効力に関する争訟との関係については改めて検討を要することとなつた。右の点に関する地方自治法の規定は必ずしも明かでないが前掲諸規定を検討すると署名の効力に関する争訟においては直接には、各署名の有効無効が確定されるに止まり、右争訟の結果により有効署名の選挙権者総数に対する比率が法定の割合に達しないこと、かかる瑕疵が直接請求手続を違法ならしめ、延いては賛否投票の無効原因となるという関係はすべて賛否投票に関する争訟において確定さるべきものと考える。従つて賛否投票に関する争訟を経ない限り署名の効力に関する争訟の結果によつて、当然に賛否投票の効力が左右されるものと解することは因難である。

してみれば、本件解職請求に関する賛否投票が昭和二十八年三月二十六日執行され、有権者過半数の同意を得たこと、右につき何等不服申立がなかつた結果同年五月十二日町長選挙が執行されたこと前示のとおりである本件においては、原告は最早右賛否投票の効力を争えないものというべく、従つて本訴を維持する利益がなくなつたものといわざるを得ない。

されば爾余の点に関する判断を省略し原告の本訴請求は理由なきものとして、これを棄却することにし訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用し主文のとおり判決する。(昭和二〇年九月七日秋田地方裁判所民事第一部)

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